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「それでいいよね? ダメかな?」
沢海先輩が身をかがめ首をかしげる。流石にかわいい……かわいすぎる。それに顔が少し近い。いい香りもする。舞依香にはない、大人の魅力を沢海先輩から感じる……ような気がする。
「はい……大丈夫です」
気が付けばそう口が勝手に答えてしまっていた。というか先輩にあんな顔されてダメと言える男がこの学校にいるとは思えない。
「本当!? やったぁ!」
「おい哲也!」
「え?」
気が付けば理科室はざわめき立ち、さっきまで沢海先輩に向いていた視線はすべて俺に注がれていた。特に男子からの視線は心なしか憎しみがこもっている。
「哲也! 今すぐに俺と変わってくれ!」
「え? 変わるって何を……?」
「畜生……なんでお前が……なんで……」
松岡はブツブツ呟いているが現状が全くの見込めない。いったい何がどうなっているんだ?
沢海先輩は再び黒板の前に立ち、チョークを手に取る。今度は白いチョークではなく、青いチョークだ。そして先輩は文字を書こうと思ってピタリと手を止める。
「そういえば君って名前なんだっけ?」
先輩はまっすぐに俺の顔を見つめる。
「えっと、會澤哲也です」
「あいざわ……えーっと……、あ、いたいた。難しい字を書くんだねぇ」
先輩は手元にある紙を見て何度も頷く。委員会のメンバーの名簿でも見ているんだろうか。そして先輩は顔をあげ、副委員長の下に文字を綴る。
"會澤 哲也"
「……え?」
先輩、なんで俺の名前をそこに書くんだ?
「という訳で今年度の清掃委員会は、委員長が私沢海、副委員長に會澤君を据えてやっていこうと思います!」
い、いったい先輩は何を言っているんだ?
副委員長? なんで?
しかく俺の渦巻く疑問はどこ吹く風で、男子以外の委員からは盛大に拍手が沸き起こっている。特に、一番前に座っている眼鏡の先輩は俺をにらみ殺すつもりじゃないかというくらいに見てくる。
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