0人が本棚に入れています
本棚に追加
「行ってきます」
玄関から出た途端に、潮のにおいが鼻をつく。生まれた時からこのにおいと共に育ってきた。俺の友達の中には、磯臭いと言って揶揄する人もいたけれど、俺はこのにおいが好きだった。
勿論、この潮のにおいだけではなく、俺は海そのものが好きだ。俺が青色が好きなのも海が好きなことと影響があるのかもしれない。俺が青色の自転車にまたがって学校に向かおうとした矢先、隣の家のドアが勢いよく開かれた。
「ちょっと待って! 乗りまーす!」
「次の自転車をご利用ください」
朝くらいは静かに登校したい。それにこの時期は海辺に咲いた桜が綺麗な時期だ。海が見せるいつもと違う情景に浸っていたい。
俺は後ろからかかった声を無視して走り出そうとしたが、後部座席に強い衝撃が走った。恐らく舞依香が飛び乗ってきたんだろう。背中には柔らかい感触もある。
「置いていかないでよ」
「……お前、自転車は?」
「パンクしてるの忘れててさ。仕方なく哲也に乗せて行ってもらおうと思った矢先、あんたが行こうとしてるんだもん」
「あのな……」
「いいじゃん。いいじゃん。小さい頃からの幼馴染の言うことくらい二つ返事で受け入れてよ」
確かに俺と舞依香は昔からの付き合いだ。お互いの両親同士も仲が良く、いまだに俺の母さんとは舞依香とはまだ付き合わないのかとからかってくる。
「それに、早く行かないと遅刻だよ?」
「誰のせいだと思って……。わかったよ、しっかり掴まってろよ」
「はいはーい」
俺はペダルを深く踏み込み、舞依香を乗せて学校へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!