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「でもなんかあれだね。哲也と二人乗りしてると、勘違いされそうだよね。それは嫌だなぁ。折角の2年生の始まりが最悪のスタートになりそう」
「おろしてもいいんだぞ」
「哲也、大好き!」
舞依香はそういうとより強く俺に強く掴まってくる。正直、乗りにくかったが、背中の感触に免じて許してやることにする。
「あ」
だが免罪符となっていた感触は小さな吐息と共にすぐに離れる。心なしか寂しかったが、すぐに離れた原因は察知することができた。俺は自転車の速度を少し落とす。
「おー、海野(あまの)」
「池ヶ谷(いけがや)先輩……おはようございます」
「なんだ。彼氏と登校だなんて朝から見せつけてくれるな」
「か、彼氏じゃありません! ただの幼馴染なんです!」
背中越しで俺の耳をつんざくように舞依香は声を張り上げる。そんなに必死になって否定されるのはなんとも面白くないが、相手が池ヶ谷先輩では仕方ない。舞依香は入学当時から池ヶ谷先輩に片思いをしている。勘違いされたくはないだろう。
「ははっ、また部活でな」
「はい……」
俺は池ヶ谷先輩に軽く会釈をしてから先輩から離れていく。
「池ヶ谷先輩の前だとまるで別人だな」
「うるさいわね。もう、あんたのせいで勘違いされたじゃない」
「もとは言えばお前の自転車がパンクしてるのが悪いんだろ!」
「うっさいわね! このバカ!」
池ヶ谷先輩みたいに傍から見れば、俺らは二人乗りで登校する仲睦まじいカップルに見えるのかもしれない。だが、実際の会話は酷いものだ。お互いの悪口も言い合いがヒートアップしていったせいもあり、気が付けばすぐに真澄高校が見えてきていた。
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