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体を起こした相手をまじまじと見るとスタイルもよく、また、目がぱっちりと大きく、艶やかな髪の色と同じように茶色がかってて吸い込まれてしまいそうだった。
「ちゃんと前見て歩かないと、危ないよ」
「あ、はい。すみませんでした……」
「じゃあね」
女の子はそのまま踵を返して校舎の方へ歩みを進めていった。今の人……どこかで会ったことのあるような? 俺が頭をひねっているとマサに後頭部を思い切りたたかれた。
「おい! 今転んだ相手に向かってよく頭をたたけるな!」
「馬鹿野郎! 沢海先輩にぶつかっておいてよくそんなこと言えるな!」
「……そうか! 沢海先輩!」
「今更気付いたのか……」
マサはあきれ返ったように俺を見る。
「だけど俺、沢海先輩と話したことないし……」
「そうだとしても日頃話題に上がっている先輩の顔くらいは覚えているだろうが!」
今俺がぶつかった沢海先輩は、去年から俺たち男子の中でも可愛い先輩として話題に上がっていた。俺も入学当時にマサに連れられて先輩の教室をのぞきに行ったことがある。その時の先輩は男の先輩と楽しげに話していて、マサと二人で肩を落とした記憶がうっすら残っている。
「まったく、朝から沢海先輩に触れるなんて、お前、ついてるな」
「触れるというか、ぶつかったんだけどな」
「細かいことは気にすんなよ! ほら、クラス替えの掲示見に行くぞ!」
そうだった。
元はといえばクラス替えの結果を見るために急いでいたのだった。
今度は前に注意しながら、俺とマサは駆け足で校舎内に入った。
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