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白い竜だ。羽毛が生えた巨大な翼を四枚、身体に持っている。
首や尻尾、胴体を包む白い鱗は、真珠のように光り輝いていた。瞳はどこまでも深い青で、愛おしげに司を見下ろしていた。
先ほどの竜よりずっと小さい。顔が司の体くらいだったし、書庫がそれ以上大きくなることはなかった。
竜は尻尾をふりふりして、司に鼻をこすりつけた。
失敗で出てきた竜と違って、話す能力は持たないようだった。竜は問いを投げるように司をただ見ていた。
司はこの竜がとても愛おしくなった。
傷ついて欲しくないと思った。
今からでも元に戻して、ホークに任せてみようかと思ったが、その想いに反応したのか、竜は更に強く、優しく、司の身体に鼻をこすりつけた。
湿った舌先で司の鼻をくすぐった後、竜は上空を見上げた。四枚の翼で床を叩くと、強烈な風圧と共に、白い竜の身体が天井高くまで飛び上がった。
『シルシオン』
竜は首を下げ、それだけを舌足らずに言った。とても言いにくそうだった。
どうやら、シルシオンというのが名前なのだと理解した。
シルシオンは、尻尾をさしだした。尻尾の先には、とげとげがついていた。
握りしめると、絶妙に湿っていて、さらにゴムのような感触がする。
司は肩に強烈な衝撃が走るのを覚悟したが、まるで綿のように身体がもちあがるのに気づいた。
それでいて、驚くほどに速かった。
風が身体に吹き付けるはずなのに、何かが守っている。
空間そのものに、飛ぶことへの抵抗を無効にする魔法がはたらいているようだった。
例えば、空気の摩擦も、重力も、司の重さすら。
シルシオンは尻尾をクネクネさせたが、不思議と揺りかごにいるような安堵感があった。
ほとんど揺れない電車に乗っているような気分だが、それよりずっと居心地が良かった。
一瞬で、雲を切り裂いて、シルシオンは下方を見た。巨大な黒い竜が、街を引き裂いている。注意深く、街を監視し、殺すものは殺し、殺さないものは殺さないと決めているような様子だった。
じっと観察した後、人を一人潰し、二人潰し、時折建物を尻尾で叩き潰す。
司は祈るようにシルシオンを見た。
シルシオンは滑空しながら、黒い竜の前へと止まった。
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