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改めて見ると、体格差は歴然だった。
五階建てのビルにようやく届きそうなシルシオンの身体。
周りのビルの二倍もの大きさを持つ黒い竜。
取っ組み合えば、どちらが勝つかははっきりとしている。
しかし、シルシオンは勇敢に取っ組み合った。二本の白い腕をひろげて、黒い竜に肉迫する。お互いに腕と腕を絡めあい、爪と爪を立て合い、牙と牙をぶつけ合う。
黒い竜は、戸惑ったようだった。
シルシオンの背後に司がいると分かると、さらに戸惑いを隠せない。
『ハセ? クロノス』
司は黒い竜の声を聞いたがやはり、何を言っているか分からなかった。
シルシオンは好機とばかりに攻め立てた。
腕を振り上げ、空気を切断するような拳を繰り出すと、黒い竜の首筋が陥没した。黒い竜は怒りの雄叫びをあげて、後ずさり、首筋を抑える。
『コワンチンホロクタ』
黒い竜の瞳に決意が光った。
『ニサワヲクチハッナナメサ』
今度は黒い竜が拳を振り上げた、あまりの剛腕に、空気が波打つのが分かった。
空気の波のためだけに、シルシオンの身体は地面から引き剥がされそうだった。シルシオンは必死で爪を地面に突き立てて、飛ばされないように身構える。
直後、シルシオンが痛々しい叫び声を上げ、よろめいた。
同じく首筋に穴を開けられ、傷口からエメラルド色の液体が地面に滴り落ちた。
シルシオンは、苦痛に呻きながら、地面に四つん這いになった。
司は急いでシルシオンの首筋にまでよじ登り、黒い竜と相対した。
黒い竜は、すぐに動きを止め、頭を深く垂れた。
『王オ!』
見るからにザラザラした手を司に差し出し、膝を屈する。
黒い竜は答えを待つように司をただじっと見ていた。
「あ、ありがとう。よく分からないけど。僕のためにやってくれているんだよね? でも、今はいいから。本に戻って。もっと大変なときに呼ぶからさ」
司はでまかせを言った。
けれど、竜はすぐに信じたようだった。司のでまかせも、完璧に嘘とは言えなかったから。
司は竜の腕に飛び乗った。
シルシオンはタイミングを見計らったように消え去った。
黒い竜はゆっくりと司を地面に下ろし、巨大な口を開いた。とても喜んでいた。
黒い竜は空に飛び立つためか、四肢を地面に押し付ける。
空気を弾き飛ばすように翼を大きくひろげ、上空を見る。飛び立てなかった。黒い竜は苦しみだした。
空気を引き裂くような咆哮が轟き渡る。
司は仰向けに倒れこんだ。
鼓膜が破れたかと思った。
必死で耳を抑えながら、司は黒い竜を見上げた。目の色が変わっていた。
今までは澄んだ赤だったのだが、濁った紫になっている。視線をくるりとあたりに這わせる。
黒い竜は四肢を折り曲げ、跳躍した。
司の側にあったビルが叩き壊され、その破片にあたって、司は吹き飛ばされた。
あえぎながら、地面を転がり、司はうつぶせになった。身体のどこかしこも鈍痛にあふれていた。
司はぜいぜいと息を吐きながら、黒い竜の豹変ぶりを見つめた。今度は見境なしに暴れまわっているように見える。
身体全体を使って見境なくビルを壊し、人を叩き潰そうとする。
司は竜の尻尾にしがみつこうとした。
その瞬間、竜の見ているものが司にも見えた。
夕べ司を殴って去った少年が尻餅を突いている。
「止まって!」
心の底から叫ぶ。
計算はなく。
意味もなく。
けれど、止まった。本当に何もかもが硬直した。
青い光の膜が、司以外の全てを止め、司は自由に動けるのが分かった。
後退りしながら、司は黒い竜と少年を交互に見た。司の頭はついにパンクしそうになって、ぽとりと座り込んでしまった。
「よくやった。うん、よくやった」
ホークが隣に立っていた。
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