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司は目を疑ったが、他の三人は何一つ驚いていないようだった。
「転移、俺のおごり」
ヤクートが銀色のコインを側の使い魔に投げた。使い魔は器用にそれを腕でからめとって、どこかに行ってしまった。
「転移って?」
「こういう店、お金を払うと出口を目的地に設定してくれるの」
「有料のどこでもドアみたいなものかな」
司が例えを持ち出すと、三人はきょとんとした。
司は「なんでもない」と首を振りながら、本屋の方へと走り出した。
と、同時に、骨太のおばさんが、司の前に立ちはだかった。
胸に、第三等預言者と書かれたバッジが着けられている。
「お待ちしておりました。この本をどうぞ」
おばさんは、二冊の本を司に押し付け、代わりに手を差し出した。司はパニックになりかけたが、すぐにどういうことか分かった。
「あら、押し売りじゃありませんよ。私は預言者ですから」
おばさんは親切心から言ってくれているように見えた。
司は本を受け取って、代わりに銀色のコインを三枚渡した。
おばさんは、よい買い物をと言いながら、どこかに行ってしまった。
本は、司の欲しいものばかりだった。
だが、選ぶ喜びが削がれてしまうのはなんだか嫌だった。
司は、三人を振り返った。ディスエルにも、同じような手合いが近寄って来た。
お金は司が払うことになった。
司だってお金持ちなわけではない。ホークから、お金を相当量もらったが、これは一年分のものだ。司は慎重にコインを数えながら、これからは節約しようと心に誓った。
「まあ、欲しい本を買った後に、また立ち読みすればいいんだよ。そんなに悪いもんでもないと思うぜ」
ヤクートは司の態度を少し誤解したらしく、求めているのとは違うフォローをしたが、それもまた事実だった。
「うん、まだ、いろいろ見たい本があるから!」
喜びのあまり、声が高くなるのを感じながら司は走り出した。
その時だった。
突然、地響きが、轟いた。
ぎょっとして辺りを見渡すと、街全体が揺れている。通行人がバランスを崩して倒れそうになった。
その次は、本棚が飛び上がって本がばらばらと落ちた。かと思えば、使い魔が不安そうに鳴き立てたりした。
ユリィがあっと声をあげたのであわてて両手で支える。
ユリィは動転しながらもお礼を言ったが、司を見上げた瞬間ぎょっと顔を強張らせた。
司の背後に、影が覆いかぶさる気配がした。
司は振り返った。
天に天体が、もう一つあった。
青く巨大な球で、表面には緑色の大陸が所々にある。ユーラシア大陸も、アフリカ大陸も、南極大陸もある。
司はディスエルとヤクートを振り返った。
「魔法、なの? でも、あんな大規模な魔法、誰が?」
二人は無言だった。判らないのだろう。初めて見るものを拝むように、ただ視線を一点に向けていた。
司も巨大な天体を見上げることにした。
ほかの魔法使いたちも、ただ見上げている。
天体はゆっくり、ゆっくり近づいているような気がする。
突然、光の線が天体から伸びてきた。司の前方に飛んできた光芒は、地面に達した途端、辺りに閃光をまきちらした。
けれど、閃光はレーザービームのような、敵意のある光ではなかった。
もっと柔らかで、月の光によく似ている。
司は、光の奥を見た。
光の奥には、女性がいた。
しなやかな曲線が、鎖骨から腹の上あたりまでを滑らかに縁取っていた。
銀色の髪が肩のあたりで緩やかにたゆたい。切れ長の瞳は深いブルーだった。
地球の色を生き写したようなブルー。
この女の人は夢で見た
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