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「料理とは、魔法と同じで等式でなりたっているんだよ。
適切なバランス、適切な容量を守ることによって、高度な魔法、高度な料理ができる。だが、それでは足りない、そこに自分の創意工夫があってこそ、魔法も料理も本当の意味で完成する」
リビングに座った司の前に、茶色のソースがかかったご飯が置かれた。
司はスプーンでカレーをすくい、口に運んでみる。
想像していたのの何倍も、美味い。
けれど、香辛料の辛さが一気に口に広がって、むせてしまった。
司は食べるのをやめなかった。
むせては食べ、むせては食べを繰り返していた。
司の食べる様子を、ホークは何か尊いものを見るような表情で見ていた。
「司、時に君は図書館に寝泊まりすることが多いようだね?」
司は悪戯がばれたような気分になって、身をすくませた。
「ああ、いや、責めとるんじゃない。
だいたい、君のような境遇でもっと完璧な回答を出せるのかは怪しいところだ。
とはいえ、私と出会った以上、まだ若い君を浮浪者のように寝かせるわけにはいかん。夜眠るときは、この場所を使いなさい」
「いいんですか?」
司は半信半疑でホークの顔を覗き込んだ。
「はっはは、ベッドは柔らかいぞ、少なくとも、君がこれまで寝てきたベンチや椅子なんかよりな。
うわあ、これはひどいな、きみは馬小屋で寝たこともあるのか!」
司は急に恥ずかしくなってうつむいた。
「いや、良かった。
ここで会えたのが何よりだ。
この部屋では半全知が働いているから、君と私の間の記憶はたとえ失われても、わしはすぐに思い出し、推測することができる。本当に運が良かったよ。
わしの半全知も捨てたもんじゃないな」
「だが、約束してくれ、ここにある本は読んじゃいかん。
それ以外のものは自由に使っても良いが、節度を保つように、いや、君なら心配いらんとは分かっているんだがな。
よし、では、今日はもう寝なさい」
ホークは怒涛のように喋ったあと、パイプをふかし始めた。
司は外を見ようとしたが、この部屋には窓がないことに気づいた。
代わりに、リビングと厨房に挟まれるように、大きな古時計が置かれている。
驚いたことに、もうすでに夜もいい時間だった。
司はまごつきながらも、うなずいて、部屋の奥へと進んだ。
真っ白な掛け布団をめくると、いい匂いのするクッションが現れた。
司は体を掛け布団とクッションの間に滑り込ませると、枕の上に頭を載せた。
目を閉じると、かなりのスピードで心が落ち着いていくのがわかる。
体から力が抜け、意識が闇の中に放り込まれた。
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