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司は、心臓が早鐘のように鳴るのを感じた。しばらく動くことができなかった。
あれは、ただの歴史年表じゃなかったのか?
でも、たしかに、歴史年表と書いてある。司は本棚を見返して、たしかにそれを確認た。司は、よろよろしながら頭を抱えた。
あんなのが街を襲ったら、何もかもめちゃくちゃになる。
ガラスの破片が、地面に転がっていた。見てはいけないと分かっているのに、司は見てしまった。
自分の姿が写っている。
自分より、ずっと凛々しい自分の姿が……。
『行け、王たる勤めだ。家臣の過ちを正せ』
「でも、あんなの、止められっこない! ホークに任せれば!」
『他人になすりつけるのか? それは本当にお前のやり方か?』
「でも、僕にはあれを止める力なんて……」
『力ならある』
ガラスの中の自分が胸元を指し示す。
司は、自分を見下ろした。金色の歯車のペンダントが、くるくると回っている。ペンダントをつかむと、暖かな光が身体を満たしていく。
『イメージしろ。なんだって引っ張り出せる』
たしかに、そうだった。
けれど、何を引っ張り出せばいいのか。
あやふやなもの、イメージが不確かなものはすぐに消滅してしまう。
夢は時が経つほど、あやふやになるから、一昨日見た夢は、明らかに色褪せている。王と重臣が集まったあの夢ではなく、先ほど見た母親との夢から何かを引っ張りださなければならない。
対抗できるとすれば、空を飛んでいた竜だろう。
しかし、これには大変な労力を払った。頭の先から尻尾の先まで、イメージしなければならない上に、見たのはちらりとだ。上空を舞っている場面をいくら思い浮かべても、全体像はぼやけている。
度の合わないメガネをかけているような気分だった。
『体験が足りないなら補完するんだ。それくらいはできる』
ふと、ホークの言葉を思い出す。
『料理とは、魔法と同じで等式でなりたっているんだよ。
適切なバランス、適切な容量を守ることによって、高度な魔法、高度な料理ができる。だが、それでは足りない、そこに自分の創意工夫があってこそ、魔法も料理も本当の意味で完成する』
やり方がわかっていても、何かが足りないのなら、創意工夫をするしかない。
ぼやけた場所の様子を推理し、見えない場所の様子を推測する。
そうすることで……、
司の横に、巨大な竜が現れた。
白い竜だ。
羽毛が生えた巨大な翼を四枚、身体に持っている。
首や尻尾、胴体を包む白い鱗は、真珠のように光り輝いていた。
瞳はどこまでも深い青で、愛おしげに司を見下ろしていた。
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