プロローグ

2/6
前へ
/203ページ
次へ
聴き慣れたサイレンと共に、 愛する学が変わり果てた姿で運ばれてくるだなんて、 誰が予測しただろうか。 「30歳前後の男性。 ビルの10階屋上から飛び降り、 頭部に強い外傷があり、出血多量です。 呼吸が無く、心停止状態です。」 担架の上で、心臓マッサージをされながら 病院に入って来たのは 血だらけで顔面の半分が潰れた学だった。 僕は目の前の現実を受け入れることができずに 硬直した。 頭が真っ白になりながらも、 落ちつかなければならないと、自分に言い聞かせた。 これが僕の仕事だ。 この仕事を選んだ僕自身が選んだ道だ。 そうして、担架と共に手術室へ急ぐ。 最新の機器が揃った空間で、 愛する人が手術台の上に横たわっている。 医療スタッフ全員が、 集中して彼の生命を救うために全力を尽くす。 しかし、頭部に深い傷があるだけでなく、 内臓にも重大な損傷があることが判明した。 正直、絶望的だったが、 ほんの僅かな可能性にかけ、 僕は何度も何度も心臓マッサージを続けた。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3043人が本棚に入れています
本棚に追加