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僕は気がつけば、彼女を力強く抱きしめていた。それ以外に、どうすればいいのか分からなかったのだ。
初めてその腕に抱いた女性の体は、思っていたよりずっと軽くて、細くて、固かった。彼女の、ハァッ、という吐息が、耳の奥にいつまでも残った。
四方を山に囲まれた、世界の果てみたいな町の、誰もいない橋の上で、僕はそうやってずっと彼女を抱きしめていた。
「…だから、そうやって抱きしめたって、結局最後には、いなくなっちゃうんだよ…。」
彼女は、無機質な声で言った。僕は、彼女に、何も言わなかった。言えなかった。
ヒグラシの鳴き声と共に、ゆっくりとこの夏が終わっていく。根拠のない希望に溢れた青い春を超えて、緑の茂る夏をも超えて、そうして僕たちは、大人になった。赤い夕日は、きっと僕らが大人になったその分だけ僕らに近づいて、僕らをジリジリと焦がした。
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