色の見える少女

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 その瞳を見て俺にはわかった。咲は本気だ。 「死ぬなんて、そんな簡単に――」 「私、どうせもうすぐ死ぬの」  俺の言葉を遮るように咲はそう言った。 「癌でね。もう手の施しようがなくて、あと数か月の命らしいわ」  その言葉は俺の頭の中で何度も響き渡り、消えていく。 「修吾君のおかげで、死ぬ前にやりたいことができたからすごく感謝してる」  茫然として言葉も出ない俺に咲は語り掛け続けた。 「結婚の夢は、叶わなかったけどね」 「……なんで俺と?」  ようやく絞りだせた言葉がそれだった。 「私、死ぬことを覚悟したときから、人の周りに漂っている色が見えるようになったの」  何かを思い出すように咲は瞳を閉じた。 「修吾君の色、とても美しかった。それで興味があって家に居ついてしまったのだけど、いつの間にか好きになってた」  俺も……咲と一緒に居られて楽しかった。それなのに…… 「私がやりたかったことは、3つあったの。好きな人に私の事を忘れないでいてもらうこと、だから絵を描いてもらって嬉しかった。次は結婚すること、これは叶わなかったけどね。そして最後は、自分の終わりの場所を選ぶこと、私は病気になんかに命を奪われたくないから」 「それが、この場所だってことか……」  咲は頷いた。それはもう晴れ晴れとした表情で。 「修吾君。私の最後のお願いを聞いてくれませんか?」  突然の(かしこ)まった話し方。 「私の血を吸って、……殺して欲しいの」  俺は、泣いていた。気が付いたら、涙が溢れて止まらない。咲の命を奪うなんて、嫌だ。  咲の為に、俺がしてあげられることは、本当にそれ以外何も無いのだろうか。 「――咲。わかったよ。君の血を吸う。君の願いを叶える」  咲は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。 「……ありがとう。修吾君。ごめんね」  彼女は笑いながら、涙をこぼした。  そして、俺は――彼女を抱きしめて、その首筋に牙を突き立てたんだ。
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