2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
その瞳を見て俺にはわかった。咲は本気だ。
「死ぬなんて、そんな簡単に――」
「私、どうせもうすぐ死ぬの」
俺の言葉を遮るように咲はそう言った。
「癌でね。もう手の施しようがなくて、あと数か月の命らしいわ」
その言葉は俺の頭の中で何度も響き渡り、消えていく。
「修吾君のおかげで、死ぬ前にやりたいことができたからすごく感謝してる」
茫然として言葉も出ない俺に咲は語り掛け続けた。
「結婚の夢は、叶わなかったけどね」
「……なんで俺と?」
ようやく絞りだせた言葉がそれだった。
「私、死ぬことを覚悟したときから、人の周りに漂っている色が見えるようになったの」
何かを思い出すように咲は瞳を閉じた。
「修吾君の色、とても美しかった。それで興味があって家に居ついてしまったのだけど、いつの間にか好きになってた」
俺も……咲と一緒に居られて楽しかった。それなのに……
「私がやりたかったことは、3つあったの。好きな人に私の事を忘れないでいてもらうこと、だから絵を描いてもらって嬉しかった。次は結婚すること、これは叶わなかったけどね。そして最後は、自分の終わりの場所を選ぶこと、私は病気になんかに命を奪われたくないから」
「それが、この場所だってことか……」
咲は頷いた。それはもう晴れ晴れとした表情で。
「修吾君。私の最後のお願いを聞いてくれませんか?」
突然の畏まった話し方。
「私の血を吸って、……殺して欲しいの」
俺は、泣いていた。気が付いたら、涙が溢れて止まらない。咲の命を奪うなんて、嫌だ。
咲の為に、俺がしてあげられることは、本当にそれ以外何も無いのだろうか。
「――咲。わかったよ。君の血を吸う。君の願いを叶える」
咲は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。
「……ありがとう。修吾君。ごめんね」
彼女は笑いながら、涙をこぼした。
そして、俺は――彼女を抱きしめて、その首筋に牙を突き立てたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!