色の見える少女

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 それからの咲は、感情が豊かになっていった。描いた絵を見て、こうやって描いていくんだと驚いたり、私こんな顔してないと抗議してきたり。  俺にとってもその時間は、悪くなかった。この家に一人で住んでいたが、二人になってようやくわかった。俺は寂しかったんだ。だから咲が居る事が嫌じゃないんだ。  咲が家に居ついてから1か月が経った頃、彼女は突然驚くことを言いだした。 「ねえ、修吾君。私たち、結婚しない?」  俺は固まった。なんとなく一緒に居て解り合えて来たような気がしていたけれど、その距離がまだこんなに遠かったのかと思い知らされた気がした。 「冗談はやめろって。そんな簡単に結婚するとか言えないだろ」  だって俺は吸血鬼なんだぜ?それは声には出せなかったが。 「ダメなの?」 「さすがにいつもみたいに、だめじゃねえけど、とは言えない」 「そう、私、結婚してみたかったのに」  そう呟いて家の縁側でみかんを食べ始めてしまった。結婚してみたいからってするもんじゃないと思うが。  咲が家に来てから1か月半が過ぎた。 「ごほっ!ごほっ!」  咲は時折り、ひどい咳をするようになった。季節は秋口に移っている。風邪でもひいたのかと暖かくさせているが一向に治る気配がない。 「おい、咲。本当に大丈夫か?隣の町に病院があるからそこに行かないか?」 「いいの。大丈夫だから、お願い。ここにいさせて」  咲の顔は血の気が引いて青くなり辛そうにしていた。  そして、ある日突然に、彼女は家から姿を消した。
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