色の見える少女

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「咲!咲っ!」  俺は家中を探し回った。今朝は久しぶりに体調が良さそうに見えた。だけど、彼女が家から外出するなんてこと今まで無かったんだ。  焦った。心の中が嵐のように渦巻いて目の前が見えなくなりそうなほど焦った。  俺は家を出たはいいが、どこにいるかわからない。彼女はこの村には不慣れなはずなのだ。  その時にはっと閃いた。 『修吾君て、絵がうまいわね。私その絵、好きだわ』  あの絵はなんの絵だったか?そうだ、あの大きな橋の絵を咲は好きだと言っていた。  俺は橋に向かって走った。なぜこんなに自分が必死なのかもわからない。ただのやっかいな居候のはずなのに。 「咲!!」  彼女は橋に居た。ちょうど真ん中、一番景色がいい辺りだ。 「あ、修吾君。どうしたの?」 「どうしたのじゃねぇよ!いきなり居なくなるなんて心配するだろうが!」  しかし俺の怒りの言葉に対して彼女は微笑みを返した。 「心配してくれて、ありがとうね」  俺はなんだか毒気を抜かれてしまって、肩を落としながら彼女の横に立ち、川を眺めた。 「俺って馬鹿みてぇだ……それで咲、なんでこんな所に来たんだよ」 「ここから川に飛び降りようと思って」  俺はその言葉に絶句した。こいつは何度俺を驚かせるのだろう。水面まで20メートルはある。ここから落ちたら死ぬ可能性が高い。 「冗談もいい加減にしろよ。こんな所から落ちたら死ぬぞ」 「だから、そうしたいの」  咲はなんの躊躇(ためら)いもなくそう答えた。
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