とある湖畔のアパートにて

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窓を見れば既に日は落ちている。十一月上旬、夜の冷えた空気が室内に流れ込んだ。香代は立ち上がって外気を追い出すように窓を閉めた。蹲るように座り虚ろな目で手紙を見た。彼女は力の入らない感じで、手紙を指に引っ掛けるように握り続きを読んだ。 「つらいことだよな、お互いさ。ごめんな、俺も転居なんてすぐに出来ることなのに。今どき寮付きの職場なんて幾らでもあってさ。こんなこと書くべきじゃないよな。そっちはどうだよ。仕事続けられそうか」 続けられそうって、そんな簡単に辞めるわけにもいかないし。 香代はペンを取った。傍らの小物入れから便箋を取り出し、テーブルに落とした。紙はフワッとテーブルに舞う。それを少し眺めて、文字を綴った。 「仕事は慣れました。ホームセンターの売り子なんて難しいものでもないし。平日はお客さんも少なくて、土日もそんな忙しくもないです。職場がアパートの目の前なので、行き帰りに時間を取られることもないし。ホームセンターの隣がスーパーだから、夜の食事はそのままそこで買います。安いので重宝してます。窓からは湖が見えますよ。周囲は住宅地で、静かでいい所です」
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