とある湖畔のアパートにて

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部屋の端に置かれている青いバッグには、雄介が送ってきた手紙が無造作に入れられている。内容はどれも同じようなものだった。仕事は見つかったか。金は大丈夫なの、足りるか。そっちの気候はどうだ、肌に合いそうか。体には気を付けろよ・・・どの手紙にも取り留めのないことしか書かれていない。 香代は思う。 雄介にも強い不安が付きまとっているのだろう。それは誰に話せることでもない。決して誰にも。そんなことは私にも分かってる。雄介は、あいつは私に手紙を書くことで、少しでも気を紛らわそうとしているのだ。同時に私に対する後ろめたさから逃れようともして。 仕方のないことだったのよ。 香代の心にも、事あるごとにあの時の光景が鮮明に浮かぶ。豪雨と強風、豪雨と強風、豪雨、豪雨、豪雨、強風、強風、強風。部屋に一人でいる時も、仕事中にも。その度に、香代はそれを意識から振り払おうと激しく頭を振った。 無理よね、そんなすぐに楽になれるわけない。 香代は強い眠気を感じた。以前にはなかった、体に重りを付けられたような、地面に引きずり込まれるような激しい眠気。少しよろめくように、よたよたと布団に向かい、倒れこみ、目を閉じた。
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