江戸っ子

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江戸っ子

「やい!篦棒目(ベラボウメ)、こちっとら、そんじょそこらのお兄いさんとは出来が違うお兄さんでぃ、テメェなんざぁ大家さんとかなんとか言ってやりゃ〜つけ上りやがって、なにをぬかしやがるだ、この丸太ん棒め!てめえなんぞ血も涙もねえ、目も鼻も口もねえ、のっぺらぼうの野郎だから丸太ん棒てんだ。イヤサァてめえなんざ厠の便所の便器デェ、マッチ角って、汚れていやがる、そうだ、テメェなんざ、あ〜人間の皮被った畜生だ。・・・テメェの氏素性を並べ立てて聞かしてやるから、びっくりして坐り小便して馬鹿になるなよ。どこの馬の骨だか牛の骨だかわからねえ野郎が、この長屋に転がり込んで来やがって・・・初めはペラペラの薄手一枚、ガタガタ震えて居るのを、長屋の奴らが仏心でテメェに情けを掛けたのが、そもそもの始まりって事を忘れやがったか?今日はアッチ、明日はコッチと毎日フラフラと物乞いをしてやがって、それがテメェの運が向いたのはここの番太の六兵衛爺さんが死んだからじゃねえか、六兵衛爺さんの小商の芋は歴とした川越の芋、それがテメェなんざ、そこいらのヒナビタ芋を使いやがった、六兵衛爺さんの頃はそれこそ隣町内から買いに来て黒山の人だかり、それがどうだ、テメェになってからはガリガリの芋を出しやがって、この因業爺が、それに、そこに隠れている生っ白い婆ァは、六兵衛爺さんのかかあ、じゃねえか。婆あが一人でさびしがって、人手も足りなくて困ってるところにつけ込みやがって、水汲みましょ、芋を洗いましょ、薪割りましょ、テメェが、ずるずるべったり、その婆ァとくっついて間夫(マブ)(ヘエ)り込みやがったのを・・・忘れたとは言はせねぇ!」
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