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カワジ、卒倒する
「兄さま、行ってきます」
ぴょんと軽やかに跳ね、階段をトントンと降りていく。園児に混ざって同じ歳頃の左右に髪を二つくくりした薄い黄色と桃色の和服を着た幼女があっという間に階下へと降りていった。
「こら、カワジ待たないか」
兄さまと呼ばれた詰襟の白いシャツに黒いズボンを履いた少年が呼び止めたが、すでに本人の耳には入っていないようだ。ここの園児たちはまだ目の前にいるのに、カワジの姿はずっと先。ひらりと裾が翻り、桜の模様が楽しく踊る。
近鉄奈良駅の噴水広場を出て右に折れ、東向商店街のアーケードの途中にある奈良基督教教会の会館は開設とともに幼稚園となり、園児たちが出入りし可愛らしい声で和ませてくれている。
一人、二人の園児があれっという顔で出て行ったカワジや兄さまを見ているが、他の者はまったく気にしていない。
兄さまもカワジも、この世のものではない。いわゆる、妖という存在だった。ふと気づいたらそこにいた。そういうものだったものであり、だから今もここにいる。
ひらひらとこちらをみる園児に手を振り、兄さまは肩を竦めた。
「また、座敷童子のところか」
最近、カワジは公納堂町の座敷童子のところへ遊びに行くことを日課としていた。そこで集まって人間観察するのが楽しいらしい。
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