最終章 封印した恋心

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「初めましての気がしませんね。」 休憩室で声をかけられドキッとした。 ここはクールに冷静に。 「素敵な口説き台詞ですね。」 「あはは~♪そういうつもりでは無いのですけど。 話していて初めてな気がしないのは僕だけですか?」 これは罠かな。 いや、誰にでも言ってる可能性もある。 画面の向こうにいた人が目の前にいるのに言葉を信じず素直な気持ちが言えない。 「それだけあなたが親しみがあって話しやすい方だからですよ。」 少し考える素振りを見せ、また口を開いた。 「そんなふうに想ってくださって光栄です。だけど、 僕はあなたと会話をしたことがある、この感覚は間違いないです。」 ドキッとした。 変な勘だけはいいんだ、そういえば。 「社内電話じゃないですか?」 「惚ける気ですか?」 「何をです?」 「 当ててもいいですか?回りくどいことはしたくないので。」 わかるわけない。 なのに確信を持った顔で目を見つめられると、そらすことしかできなかった。 「何が言いたいの?」 つい感情的になって敬語を忘れてしまう。 「ふふ。そういうところ、僕の知っている人に似てるんです。最も逢ったこともなければ顔も見たこともないけど毎日、会話はしていました。昔の文通みたいなものですかね。 だけど少し前もうその人は姿を見せなくなったんです。」 「何の話をしているんですか?」 「やっぱりあなただ。最近僕の動画配信に来てくれなくなった。ずっと気になっていたのに連絡手段もないままだったんですよ。もう堪忍してください。半年間 、画面上で会話を続けていて、もしかしたら同じ会社なのかもと想っていました。初めてあなたと顔を合わせた時すぐに分かりました。」 「な、なんで?」 「見えない相手を好きになっているんですから見えないぶん、他の所に神経が行くの当たり前でしょ?惚れた女性のことを知りたいんだから。話し方、考え方でわかりますよ。いつもそばにいるように画面を通して会話していたから。」 「・・・。」 「僕だってびっくりしましたよ、本当に同じ会社だったとは想わなくて。 いつ言おうか、いつ伝えようか、また遠くへ行ってしまうかもしれないから焦りました。」 「・・・。」 「 もし僕の勘違いでなければ両想いって想っていいでしょうか?だけど改めて言わせてください。僕はあなたが好きです。あなたの気持ちが聴きたい。」 遠くの人だと想っていたのでいきなりの告白。 声が出ない、言葉に出せない。 「・・・っ!」 「ゆっくりで大丈夫。ね?」 「す、好きです、ずっと。」 やっと言えた。やっと気持ちを伝えることができた。 「ありがとう。」 「画面の向こうの遠い人だからずっと言えないでいました。」 「クスクス。 画面越しだけど同じ生身の人間なんだから気軽に話してくれればよかったのに、あなたらしい。」 「言えるわけないでしょ。」 「ふふ。」 お互い初めて見つめ合い触れ合うことができた。 「続きは、夜に。」 「は、い。」 ちゅっ。 随分と気障なことをしてくれる。 手の甲にキスなんて初めてだった。 「もう、離しませんからね?」 「・・・//////」 これから、あの人と甘い時間がスタートするんだ。 そんなことを考えると頬の緩みが隠せなかった。 遠い人が近くになった、あの日。 画面の向こう側にいた大好きな人と毎日、会社で目を合わせられる。 封印した恋心を解放してもいいですか?
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