§3

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 テーブルに頬杖をついた姿勢のまま、唐島は挑むような視線をこちらに投げてくる。彼のことをよく知らない人間が、因縁でもつけられるのではないかと怖がるのも無理はない。  瞬きもせずにこちらを見据える唐島の視線をかわすように、薫は論点を微妙にずらした。 「というかさ、『とろける系』の柔らかいプリンが許せねえんだよ俺は」  昨日までやっていた仕事のモヤモヤが甦る。  コンビニスイーツ新作の食べ比べの企画だった。そのひとつの「究極のとろけるプリン」が、生クリームをこれでもかと入れてゼラチンで固めたタイプの、薫の理想とするカスタードプリンとは対極の商品だったのだ。 「何が『かつてなかった贅沢な味わい』だよ。かつてあったわけねえだろ、あんなのプリンとは呼ばねえんだから。正直に『ババロア』って商品名にしとけっての」  もちろん、仕事なのだからそんなことを書くわけにはいかない。コンビニ各社は「キュリオ」の重要な広告主でもある。それでも唐島を前にすると、校内新聞の編集長だった頃に戻ったかのような熱血口調になってしまう。 「俺としては、蒸す工程を経てないものは基本的にプリンと認めたくないわけよ。ゼラチンで固めたものなんて、いわば『カスタードゼリー』だろ。まして卵の味がほとんどしないものなんてカスタードですらないわけで、もう、『プリン』の要素はどこに残ってるんだ! って叫びたくなるよな」  薫の熱い主張に、唐島は冷静に応じる。 「それはあくまで、愛さんの好みの問題だと思うけど」 「そうだよ、百パーセント俺の好みで主観で偏見だよ。悪いか」 「全然悪くない」  変わってないなこいつ、と薫は苦笑する。唐島の言葉には遠慮もないが嘘もない。  さすが、ごまかしの一切効かないカスタードプリンで勝負できる奴は違う。自分は中身で勝負する自信がないから、いつも饒舌すぎるほどの言葉で武装してしまうのだ。
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