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「本人が嫌なら無理強いはしませんけど。まあ、地道に内容で勝負してファンを増やしていきましょうかね」
その結論にはほっとしたものの、肝心の連載の打ち合わせは少々難航した。今回は鬼門だと思っていた恋愛相談だった。「友達として親しくしている相手を好きになってしまった。想いを伝えたいが、振られたらと思うと怖い」というものだ。よくある悩みと言ってしまえばそれまでだが、簡単に答えが出ないからこそ多くの人が同じことで悩むのだ。
編集部を辞した薫は、さてどう答えたものかと途方に暮れる。
既に友達という関係を築いているなら、それを壊したくないと思うのは当然だろう。一方で、もっと特別な存在になりたいという願いに蓋をして、笑顔の間柄を保つのは苦しいに違いない。
想いを寄せる同級生の隣で、切ない恋心を隠して笑う女の子の姿を想像する。
「きっと、優しい人なんだろうなあ」
彼女の恋煩いが伝染したみたいに、ふうっ、と大きな溜息をついたときだった。
「誰が」
「わあああっ」
危うく椅子から飛び上がりそうになった。
「……愛さん、俺が話しかける度にそうやって仰天するの、いい加減やめてくれない?」
タルトタタンとガトーショコラとカスタードプリンが載ったプレートを薫の正面に置きながら、唐島が憮然として言う。
「お、おう……悪い、ちょっと考え事してて」
相談に対してどんな切り口から答えたものか悩んでいるうちに、足は自然と「ヴィトライユ」へ向かっていた。水上に勧められるままにケーキを注文し、いつものテーブル席に座ってからも、まだ同じことを堂々巡りのように考え続けていたのだ。
「で、『優しい人』って誰のこと考えてたんですか」
目の前の椅子に座った唐島が、薫の独り言を律儀に拾い上げる。
「いや、誰って……」
知らない人だよ、と言いかけて、薫は慌てて言葉を呑み込んだ。
「ちょっと、悩みを相談されててさ」
仕事で、と明かすわけにはいかない。
「悩み?」
唐島が形の良い眉をひょいと持ち上げる。
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