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「なんか、仲のいい友達の一人だった相手を好きになっちゃったらしいんだよ」
唐島が黙り込む。だがその目は瞬きもせずにこちらに注がれたままで、薫の話に真剣に耳を傾けてくれているのがわかる。
そうだ、この特殊な瞳の色は「ヘーゼル」というのだった、と思い出す。日本生まれの人の間にも少数ではあるが存在するというが、これほどグリーンの色味が強い例は珍しいのではないだろうか。
目の表情に感情の揺れが映りにくいので、どこか無機質な印象を抱いたこともあった。だがそうではないのだ、と薫は気付く。
彼の眼差しは「強い」のだ。見栄を張ることも卑下することもなく、言い訳を封じるかのように正直に相手と向き合う目だ。
ふと、彼ならどう答えるだろうかと考える。
「なあ。唐島ならどうする」
「どうする、って」
「お前なら……それまで友達だった相手に、好きだって言える?」
自分の発した言葉を耳にして初めて、迂闊だったと薫は気付いた。その問いはあまりにもブーメランすぎた。
自分は、言えるだろうか。
「愛さんだったら?」
恐れていたとおりに問いをピンポイントで返されて、かっと顔が熱くなる。
「言えるかどうか、わかんねえよ。わかんないから訊いてるんだよ」
たとえば今ここで、「実はお前が俺の初恋だった」などと打ち明けたらどうなるだろう。想像しただけで身がすくむ。
「相手も自分と同じ気持ちでいてくれるならいいけど、そうじゃなかった場合は互いに気まずくなるだろ」
自分の場合は、おそらく気まずくなるどころでは済まない。なんせ同性だ。いくら過去のこととはいえ、親しくしていた先輩が実は自分のことをそんな目で見ていたなんて聞かされたら、拒否反応のひとつやふたつ出てきて当然だ。
こんな風に、ときに愚痴をこぼしながら極上のプリンを味わう奇跡のような時間も、あっけなく終わりを告げてしまうだろう。
だが、そんな薫の本心を知らない唐島は相変わらず憮然とした表情のままだ。
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