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中性的な容姿のせいか、それとも周りが無意識のうちに薫の性的指向を察していたのか、こういう話題だと男子よりも女子の方が自分をすんなりと仲間として受け入れてくれた。あちら側とこちら側という風に隔てられることなく、いつも本音全開の恋愛トークを聞かされてばかりだった。
「いつだったか、新聞部の愛さんの同期の女子が、彼氏に友達の前で『ブス』呼ばわりされたって泣いてたじゃないですか」
「そんなこと、あったっけ」
「うん。愛さん、子供っぽい独占欲でそんなことする男はろくな奴じゃない、とっとと別れちまえ、ってすごい剣幕で怒り始めて、最後は泣いてた彼女に逆になだめられてた」
「くっそ。そんなん、どっから見ても相談相手として不適格すぎじゃねえか」
覚えてはいないが、いかにも自分がやりそうなことだ。やめろよ恥ずかしい、と高校時代の自分を羽交い絞めにしてやりたくなる。
「そうかな」
唐島がふっと真剣な表情をほどいた。
(あ)
その、わずかな表情の変化に目を奪われる。
くっきりと目力の強い切れ長の目がかすかに細められ、目尻に一筋皺が寄る。たったそれだけで、端正だが厳しい顔つきが角の取れた柔らかな雰囲気になる。
「俺は、愛さんって優しいな、と思ったよ」
なんのてらいもない誉め言葉に、心臓がリズムを一拍飛ばしにする。薫は慌てて視線を逸らした。
「そんなわけ、ないだろ」
自分は弱いだけだ。毒舌を吐いたり大げさに怒ったりするのは、その弱さを覆い隠すためのハリボテにすぎない。
優しいのは唐島の方だ。向ける眼差しが強く優しいからこそ、そこに映る人の姿が優しく見えるのだ。
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