§5

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「何の、話……だよ」 「クリスマスケーキの試食の話です」 「……へ?」 「そろそろメニューを最終決定しないといけないんですけど」  テーブルの上で手の指を組み直しながら、唐島が説明する。 「愛さんに試作品を食べてもらって、率直な意見を聞かせてもらいたいと思って」 「なんだ、そんな話か……」  破裂寸前の風船のようだった緊張感が、一気に緩んでいく。 「だめですか?」 「いや、急に言われても……大体、なんで俺なんだよ? そういうのはあれだろ、フードコーディネーターとかそういう専門家に頼んだ方がいいんじゃないのか?」  なんなら知り合いを紹介するぞ、と続けそうになって、すんでのところで口をつぐむ。そうだった。自分がライターをやっていることを唐島に知られるわけにはいかないのだ。  いや、逆にそれがばれてしまったからこんな申し出をされているのだろうか。その可能性に気付いて、薫は肝を冷やす。  だが唐島は、表情を変えずに首だけをきっぱりと横に振った。 「愛さん以外に頼むつもりはないから」 「だから、なんで」 「たくさん食べてくれるし、舌も確かだし。こんな適任、他にいない」 「……こんな大食いでうるさい奴はいないってわけだな」  くそ面倒な奴だと自分でも思うが、どうしてもひねくれた答えを返してしまう。 「うるさくないよ」  唐島が、顔の前で祈るような形に組んでいた両手をほどいた。 「愛さんの言葉は、いつも本気だから安心する。大丈夫だからそのまま進め、って後ろから援護射撃してくれるみたいに感じる」  思いもよらないことを言われて、薫は長い睫毛を瞬かせた。自分の辛辣な物言いがそんな風に受け止められていたことも意外だったが、それ以上に、他ならぬ唐島がそんなことを言うのに驚いた。  自分以外の誰にも寄りかかったりしそうにない奴なのに。それこそ孤高のスナイパーみたいに、援護射撃なんてむしろ邪魔なだけだと言いそうなのに。
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