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「これだけじゃなくて、なんなら当日店に出てるケーキ全種類制覇したいくらいだけどな」
「ありがとうございます」
ひとつも嬉しくなさそうな無愛想な声だが、先ほどまでの険しい雰囲気がふわりと緩む。目がわずかに細められ、目尻に細い皺が寄る。
吸い込まれそうな瞳の色に、あの哀しいくらいささやかな思い出が不意に甦った。あの日、プリンがもう食べられないと落ち込む薫に気休めを言ってくれたときも、唐島はちょうど今と同じような表情をしていた。
そして、唐突に気付く。
仏頂面の唐島にとってこれは限りなく笑顔に近い表情なのではないだろうか。
どくん、と心臓が震えた。
(待て待て待て)
制止を振り切って、心がぐんぐん走り出す。初恋をあっという間に追い越して、目の前の唐島へと辿り着く。記憶の中の理想の味を更新するかのように、十年前の片想いが鮮やかに上書きされていく。
(やばい)
息苦しいほど強く拍動する心臓を抱えて、ようやく、悟る。
これは、二度目の初恋だ。
不器用に笑う後輩に、まるで一目惚れのように恋をし直している自分がいる。
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