§7

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 流れるような手つきにただただ見惚れているうちに、あっという間に薫の前に一人分サイズに切り分けられたショートケーキが三つ置かれていた。まるで魔法だ。 「愛さんの左から、小粒、大粒、新種の順」  薫は思わず目を細める。 「あー、やっぱり苺ショートって華やかでいいな。なんか無性にわくわくさせられるよな、この色合い」  新雪を思わせる白く滑らかな生クリームに、花が咲いたように鮮やかな赤い苺。そこに添えられたヒイラギの緑。これぞハレの日のケーキの王道中の王道だ。 「でも、大事なのはやっぱり味だよな」 「うん。その点、苺がどれも一長一短で。見た目がいいのは味が物足りない」 「上に飾る用と中に挟む用と、種類を使い分けたら?」 「そうするとそれぞれロスが出るし、まとめて注文した方がコストもかからない。単価はなるべく抑えたいから」 「なるほどなー」  とにかく話は食べ比べてみてからだ。まずは薫から見て右端の、新種の苺を使ったものを手元に引き寄せた。  見た目はこの苺が一番バランスがいい。形も綺麗な円錐型で赤味も深く、絵本に出てきそうな可愛らしいケーキに仕上がっている。 「うん、悪くないと思うけどな」  酸味も甘味も強すぎす、優しい味だ。生クリームのコクやスポンジケーキのふんわりした食感の邪魔をせず、むしろ引き立て役となっている。  続いて、真ん中の大粒のもの。 「あ、俺はこれはあんまり好きじゃない」  甘味は強いが主張しすぎる感じで、クリームとのバランスが悪いように思える。これなら、わざわざケーキに使わなくても苺単独で食べた方がよさそうだ。  そんな薫の感想を、唐島は真剣な顔つきでメモにとっている。本当に菓子作りに真面目なんだな、と思う。
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