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§9
丸一日寝込んだ後、這うようにして最寄りのコンビニとドラッグストアまで買い物に行き、辛うじて都会での孤独死は免れた。薬を飲んで死んだように眠り、三日目にはようやくゼリーやスープなどを口にできるようになった。
武田に事情を説明すると、仕事の方は心配いらないから静養してくれというメールが返ってきた。一週間ほどしてどうにか体力が回復すると、薫は謝罪を兼ねて「キュリオ」編集部を訪れた。
「ご迷惑をおかけしました」
持参した菓子折を差し出して深々と腰を折る。普段から不摂生を重ねていた身体が針金のようにやせ細ってしまったのを見て、武田が溜息をついた。
「そのやつれ具合じゃ、言い出しづらいなあ」
「何を」
打ち合わせ用のスペースに向かい合って座ると、武田が珍しく言い淀む。今日も綺麗にネイルをした両手の指先を組んだりほどいたりしている様子を見て、なんとなく、いい話じゃないなと察する。
武田は肩を一度ぐっと持ち上げて落とすと、静かに切り出した。
「急ですが、『あなたの悩み、甘やかします』の連載は年内で終了することになりました。つまり、今日これから依頼する分が最終回ということになります」
「……え」
武田はテーブルの上に資料を取り出した。
閲覧数が思うように伸びていないこと。特にここ数週間は寄せられる相談の数も大幅に減っていて、読者に飽きられている傾向が見られること。「キュリオ」のサイト自体がリニューアルを予定していて、多くの連載を入れ替える方針であること。一つひとつデータを示して淡々と説明をした後で、武田は初めて悔しそうな顔になった。
「もともと、無理のある企画だったのかもしれませんね」
「無理?」
「辛島さんに、かなり無理させてたでしょう」
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