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その夜は、インスタントコーヒーとコンビニスイーツをお供に、久しぶりにデスクに向かった。メールで送られてきた相談内容のファイルを開き、改めてじっくりと読み直す。
「同性の友人を好きになってしまいました。片想いでいいと思っていたはずなのに、いつしか、この気持ちを受け入れてもらえるのではないかという期待を抱くようになりました。けれど、それは自分の思い上がりでした。焦って距離を縮めようとして、相手に拒絶されてしまったのです」
読みながら、薫は半ば無意識のうちに胸に手を当てる。
「今は相手に徹底的に避けられていて、どうしていいかわかりません」
文章の行間から、涙が滴り落ちてくるのが見えるような気がする。
「軽率な行動に出てしまったことを謝りたい。もし相手が許してくれて、友人に戻れるなら、自分の恋は諦めてもいい。ただずっと傍にいて、必要なときにはいつでも支えられるような存在でいたい。そう考えるのは自己満足でしょうか」
相談は、そう締めくくられていた。
胸の奥に涙がつかえている。それを堰き止めている栓を引き抜くように、薫はいきなり回答を書き出した。
「謝らないでください。許しを乞わないでください。あなたは何も悪くないのだから」
むしろ、自分の気持ちを素直に行動に移したこの相談者の勇気を讃えたいと思う。
「あなたは堂々と自分の気持ちを告げていいんです。その気持ちを持ったまま、あなたにしかできないやり方でその人のことを支えてあげることもできるはずです。その想いは自己満足なんかじゃない」
インスタントコーヒーがマグカップの中で冷めていくのも構わず、薫はキーボードを叩き続ける。
「諦めるという決断を否定するつもりはありません。ただどうか、『好きになった自分が悪い』などとは思わないでください」
そこで薫はひとつ息をつくと、続きを一気に書いた。
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