§3

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 しかし、薫のあくなきスイーツ欲は、ペンネームがばれてしまうことへの恐怖をやすやすと上回ってしまった。 「この柿のショートケーキって初めて見るな」 「今週からの新作です。超オススメですよ!」  いつものようにテンション高めに勧めてくる水上は、半年前にオープンしたばかりのこの洋菓子店「ヴィトライユ」のオーナーの息子だという。料理専門学校の洋菓子専科に通っていたが、自分には才能がないとパティシエの道を諦め、代わりに同期で首席だった唐島をこの店にスカウトしたらしい。 「でも、柿って洋菓子にするにはちょっとインパクトが弱くない? 香りとか」 「そう思うでしょ? でも、これはマジで隆司の自信作なんですよ。ぜひ味見してって!」 「そう言われると断れないなあ」  水上の押しの強さに屈したふりをしながら、薫は首を縦に振る。唐島の自信作だなんて、お勧めされなくても注文するに決まってる。 「じゃあ今日はそれと、ベイクドチーズケーキと、あとカスタードプリン。全部イートインで。持ち帰りは食べてからまた考えるね」  注文を終えると、薫は案内される前にいつものテーブル席に腰を下ろす。 「それにしても愛沢さん、本当にカスタードプリン好きですよねえ」  厨房から戻ってきた水上が、感心しつつも半ば呆れたような声で言う。 「いっつも必ずプリンは注文しますもんね。もはや主食じゃないですか」  毎回イートインで三つか四つはケーキを食べていく薫だが、水上の言うとおりカスタードプリンは絶対に外せない。 「いや、ここのプリンは特別だから」 「何が特別なんですか」 「長年追い求めた理想の味なんだよ。たとえこの店の商品がこのプリンしかなくても、俺は毎日でも通うよ。なんなら今すぐここの近所に引っ越してきたいくらいだ」
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