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§2
ゲイであることを特に隠してはいない。わざわざ自分から言及することでもないと思うが、訊かれれば普通に答える。何しろ見た目からして男臭さが皆無なので、「なんとなくそれっぽい」などと遠回しに推測されるくらいなら、最初から明らかにしてしまった方が気楽だというのもある。
肌は抜けるように白く、さらさらと細い髪は対照的に艶のある濡れ羽色だ。小顔で、ただでさえ大きなつり気味の目が目立つ。自分で鏡を見て感心してしまうほどの仔猫顔だ。高校の文化祭では「愛沢がやっても今更なんの意外性もない」と、女装要員から真っ先に外されたくらいだ。
「だから恋愛ネタよりも、むしろこっち関係の悩みの方が心配だったんですよ私は」
電話の向こうで、担当編集者の武田里紗が溜息をつく。たった今送ったばかりの原稿に、思い切りダメ出しを食らったところだ。
「こっち関係って」
「美容や容姿の悩みですよ。『ちょっとぽっちゃりしてるくらいが可愛いよ』なんて慰められて死にたくなった経験なんて、生まれてから一度もないでしょう?」
「あるわけないじゃないですか。てか、マジで女子ってなんでそんなに無闇と痩せたがるのかなあ? 男の考える理想体重より五キロくらい下を目指してませんか」
「身長百七十センチで体重五十キロの男子にだけは言われたくないですよそんなこと」
「え。なんなの武田さん、エスパーかなんか? なんで俺の身長体重知ってんですか」
「げ。ホントに五十キロしかないんですか? あーやだやだ。のべつ幕なしに甘いもの食べててそのプロポーションって、どんだけ神様に贔屓されてんですか、もう」
妬むような口ぶりの武田だって、薫に言わせれば標準よりは細い方に入る。
「贔屓、って。こっちはそれがコンプレックスだったりするんだから」
つい、昼間再会したばかりの唐島の姿を思い浮かべてしまう。身長は優に百八十センチを超え、コックコートの上からでもはっきりとわかる男らしい体型だった。肩幅は広く胸板も薄っぺらくなく、手足にもしっかり筋肉がついていて、ひょろりと細いばかりで非力な薫とは大違いだ。
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