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那須野が原
ずらりと立ち並ぶ杉に山頂からの風がさわさわと抜けていき、熊手のような杉の葉を揺らしていく。
正雄は背負い籠の肩ひもをしっかりと掴んで杉並木に挟まれた砂利道を駆け抜けていく。籠の中で畑にて採れたばかりの菜っ葉がギシギシと音を立てているし、ぽこぽこと籠に当たっているのはたぶん茄子だ。今朝採った野菜の中で一番見栄えのいいものを青木様のお館に届けに来たのだ。
杉並木を抜けると白亜の館、青木周蔵様のお住まいが三方を森に囲まれて建っている。独逸贔屓で有名な青木様は、エリザベート様も独逸から貰っているし建物も独逸仕込みなのだそうだ。何もかも独逸に染めているので、遠方よりお越しのお偉い方々からも『独逸翁』と呼ばれていたと、館で働いている幼なじみの八重より聞いている。
マンサード風屋根に鴉がとまり、風見鶏よろしくキョロキョロと辺りを見渡していた。正雄がいよいよ館の前まで近づくと鴉は堪えきれずに飛び立った。カァと鳴くのは文句なのよと八重が話していたが、正雄は単なる掛け声だと思っている。
飛んでいく鴉をチラリと見てから、白の手すりがついた玄関ポーチを横目に建物沿いを行き、調理室の横にあるポーチを駆け上がって扉を開けた。
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