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ぱさっと視界の端で屋根に溜まっていたであろう雪が落ちて、次の屋根にぶつかった音がした。
「来年になるとは思うのだが……私は米国に行かされることになるだろう。明治政府の方針で大使として赴くことになる。どうだろうか、正雄は米国へ行ってみたいとはおもわぬか?」
淡々と述べられる事柄は青天の霹靂であり、突拍子もなさすぎて正雄にはなんと答えていいのかと途方に暮れた。それを察し、青木様は「驚くか。驚くであろうよ、当たり前だ」と、理解を示した。
「私一人で行くわけではなく、補助役を何人も連れていくのは毎度のこと。その中にお前も加えたいのだ。米国は英語であるから、お前はこれから死ぬ気で勉学に励まないとならないが、きっと成し遂げると私は思っている。違うか?」
これは正雄にとって身に余る光栄な話なのだ。農民の子として生まれ、農民としてしか生きられないと思っていた。こんなこと四方山話でもしたことがない。しかし、どうして自分にそのような役を抜擢するのか疑問に思う。
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