序章 龍の契り

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転職した理由は此方の方がお給料が良かったということもあったけれど、色んな場所に行けるのは素直に愉しいと思えた。当然危険がつきまとう仕事だという意識は常に持っている。 ただ身を置いているお店がしっかりとした経営体制を敷いているために今のところ強制本番や暴力などの禁止行為に遭遇したことはなかった。 でも──ごくたまに気が合った人は私から誘うことがあった。 いけないことだと分かっていても、つい優しい人や話し上手な人と触れ合っているとそういう気分になってしまう。 そして私は勘違いしてしまうのだ。『この人なら私だけを愛してくれる』と。 だけど所詮私はデリヘル嬢。一時的な体だけの繋がりで愛された気になってしまう私はいつも泣く羽目になるのだった。 依頼を終え、送迎の車中でぼんやりと流れる景色を見ながらため息をつく。 (こんな仕事をしていて巡り逢えるのかな…) 私だけを愛してくれるたったひとりの(ひと)に──そう考えていた時に不意に頭の隅っこに浮かぶひとりの男性がいた。
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