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目線の先に、青い正三角形が組み合わされた橋りょうが見えた。電線の上で鳴いているのは雀か、ムクドリか。山の向こう側から太陽が姿を見せていた。街が起き始める。左手に迫っている橋を渡ってしまえば、駅はもう目と鼻の先だ。
「――健太先輩、元気っすか?」
「相変わらずだよ」
別れていればいいのになーという薄い期待はあっけなく打ち砕かれて、そっすかーという便利な言葉で破片を流す。
「もう4年くらいでしたっけ?」
聞きながら、どうしてこんなこと聞いてんだろうな、と思う。次に会えるのがいつになるかもわからないのに、むざむざ傷つきにいく俺は馬鹿かドMのどちらだろう。「4年と3ヶ月、かな」という答えに静かに思い知る。ほぼあってるじゃん! と突っ込みたくなるその3ヶ月の誤差は、サキ先輩にとって訂正せずにはいられないものなのだ。
「……まー、相変わらず、浮気とかしてるよ」
「そりゃ……相変わらずっすね」
「この前なんか健太の家に見覚えのない化粧水のボトルが堂々と置いてあんの。しかもデパコスのたっかいやつ。ムカついたから全部洗面所に流しちゃった」
「サキ先輩」
朝日が川を照らしていた。鱗状の水面のひとつひとつが震えている。俺にはそれがサキ先輩の涙みたいに見えた。
「キスしていいですか」
肩に手を置いてゆっくりと唇を近づけた。栗色の髪の毛から甘い香りがした。
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