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夏の朝は嫌いだ。
大きく伸びをすると、群青色の空に浮かんだ雲がオレンジ色に染められていくのが見えた。冷房がガンガンにきいたカラオケ店から1歩出た夏の空気は早朝だというのにすでにぬるま湯のようで、すっかり冷えきった二の腕の毛穴ひとつひとつがゆっくりと呼吸を取り戻していく。
蝉が鳴き始めていた。人生が残り1週間だとしたら俺だったら寝て過ごしたいけどなぁ、でもセックスはしたいから俺が蝉でもやっぱりたくさん鳴くのかもなぁ、なんて、とりとめのないことを思う。国道すぐ横に真っ直ぐのびる川沿いの土手道は、名前も知らない雑草が昨日よりも背丈をのばして、太陽の陽射しを今か今かと待ち構えている。絵に描いたような爽やかな朝は、どうしてこうも人を後ろめたい気分にさせるんだろう。
「庄司先輩、おつかれっす」
うす、と返事をして山本が自転車にまたがるのを見送る。3次会まで残ったサークルメンバーは10名ほどいたはずだけど、みんないつの間にか帰路についたようだ。
「4時かぁ」
ポケットからスマホを出して時間を見る。
「4時かぁ」
隣でサキ先輩が同じ言葉を繰り返す。
娯楽に勤労、本業の学業まで、全て自転車10分圏内でまかなえてしまう俺らとは違って、2年前に社会人になったサキ先輩は大都会トーキョーに住んでいる。都内に出るまでは駅まで徒歩15分、そこから快速で45分。始発が動き始めるにはまだ余裕があった。
学生の時はすぐ家帰れたから気にしなかったけどさぁ、フリータイム終わりが4時って中途半端だよねぇ。サキ先輩がつぶやく。そっすよねー、アルコールと眠気で重たくなった頭で相槌を打つ。眠たいなー。眠いっすねー。あたしもう24だから、オール、キツイわ、まじめに。俺も22だから毎回1限起きれんっすわぁ。
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