八月七日

4/8
176人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
触れられた場所に神経が集まっていくような感覚、彼の真剣な横顔へと視線が奪われる。顔が異常に熱かった。 「直人! 引け!」  彼の声に反射的に竿を思いっきり引く。持って行かれそうな強い反動の後、それがぷつりと突然切れて、そのまま彼共々後ろへと勢いよく倒れ込んだ。手を離れた釣り竿が宙を舞う。  強打した背中と頭に思わず呻いていると、隣で同じように倒れた彼が耐えられないという様子で吹き出した。腹を抱えて笑う彼を涙目で睨みつける。 「修平ー……」 「いや、お前のタイミングのせいだからな」 「修平が引けって言ったじゃん」 「あんなに思いっきり引いたからだろ」 「こっちは素人だっての!」  未だ笑い続ける彼に、ため息をついて空を仰ぐ。緊張していたせいかひどく疲れてしまった。隣で笑う彼の声が徐々に落ち着いてゆくのを聞きながら、暑い日差しに目を閉じる。彼が動く気配がしたが重たい瞼を開けなかった。顔に影がかかる。 「寝るのか?」  降ってきた声に答えることもせず、ただ体が沈む感覚に身を任せる。隣で彼が寝転ぶのを感じ、そのまま睡魔に身を委ねた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!