八月二日

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八月二日

 第一印象といえば聞こえがいいが、彼との出会いはとにかく強烈なものだった――  照りつける真夏の太陽。肌に貼りつく不快な湿気。鳴り止まない耳障りな蝉の声。あと、荒い息づかい。  ひっそりとした旧校舎裏の隅で、真っ黒い喪服姿で地面を掘っている彼を見た時、「あぁ誰かの骨でも埋めているのか」と思った。  耳にかかる長めの黒髪に、黒いネクタイで締めつけられた首元。喪服に隠された体のライン、荒い呼吸に合わせて上下する肩。  どことなく欲情を感じさせてくる姿だ。こちらからは横顔しか見えないが、暑苦しい喪服をいきなり剥ぎ取ったら、あの気の強そうな顔はどう歪むのだろうか。  なんにせよ、冷房もない熱帯環境下ではまともな考えなんて出来ないだろう。彼も、俺も。 「暑苦しそうだなー……」  あと、泣かせてみたいな、とも。  有名大学への足がかりとして有名なこの学校で夏休みの補習を受けるなんて生徒は他にはおらず、彼から少し離れた場所でゴミを捨てながら、一人そんなことを考えていた。  彼のそばにある旧校舎は古い木造の二階建てで、五年前に新校舎が建てられてからは閉鎖され物置のようになっているはずだ。枝を伸ばす広葉樹に囲まれた薄暗い場所。彼の姿が木漏れ日の中、やけに印象的だった。
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