八月七日

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「ねぇ修平」 「んー?」 「修平は、浩紀さんの気持ち、知ってたんでしょ?」  探るように聞いてみたが、彼の表情は変わらなかった。だが、返事もなかった。ごまかすつもりか。彼のそんな態度に思わず顔を顰めていた。 「修平、浩紀さんは、」 「言うな」  彼の声に言葉を止めた。切れ長の目が、こちらを刺すように向けられていた。 「お前の口から聞きたくない」  突き放すような言葉に、頭に血が昇る。浩紀の気持ちを知っていながら、そうやってごまかしてなかったことにしたのか。後悔しているのはあんたのほうじゃないか。  でもそれは言葉に出来なかった。もどかしさを抑えるように拳を握りしめ、彼の目から視線を外す。浩紀の気持ちを代弁するつもりはない。ただ、彼にもちゃんと受け止めて欲しいと思っただけだ。  一度深く息を吸い込んで、肺の空気をゆっくりと吐き出す。気持ちが幾分か落ち着いた気がした。 「ごめん、勝手だった」 「……いや、悪い。俺のは、ただの八つ当たり、」  彼が途中で言葉を止めて「あ!」と声を上げる。その声に、自分の握りしめていた釣り竿が勢いよくグンっと引かれて、ようやく魚が食いついたのだと気がついた。  水面を叩くように跳ねる大きなヒレが見え、慌てて立ち上がって竿を握り直す。だがそれ以上動けずに情けない声を上げて彼に助けを求めた。 「修平! 助けて!」 「ばか! 強く引くな!」 「いや、知らないって! ちょ、どうしたらいいの!」 「いいからリールを巻け! 慌てるなよ!」 「いやいや、まじで無理だってー!」  大きくしなる釣り竿が今にも折れそうで、思わず力を抜いたところで彼の手が重なった。すぐ横についた彼が、重ねた手ごとリールのレバーを回す。握られた手の熱さに、食い付いた魚のことなんて一気に吹っ飛んでしまった。
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