3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、ピアス」
走ってきた男性はユウタだった。
鼻の先を真っ赤にさせて私に強引に何かを握らせた。
ピアスだ。私がつけているものの反対側。どこかにいってしまったと思ってた片っぽ。
何を今更、そう言おうとしてユウタの顔を見た。
泣いてた。
目が真っ赤になってた。なんなら鼻水も少し出てた。変な顔。
「ごめんって、本当に俺、知らなかった」
そのまま抱き締められた。歩道橋の上。今更だけど、朝の寒さを感じていた。それから人の、ユウタのぬくもり。
今の今まで気がつかなかったけれど結構冷えていたらしい。私の体が思い出したかのようにガタガタ震えた。
強く強く抱き締められる。ユウタは男の子だ。腕の力も強い。
「潰れちゃうよ」
そう言ったけど離してくれない。
「良い曲だった。ちゃんと聴いてなくてごめん」
ごめん、ごめんと謝られ続ける。ユウタの匂いがすぐそこに。顔をユウタの肩に埋める。なつかしい、あの頃みたいだ。
最後にこうして抱き合ったのはいつだっけ? なんだかんだで、もう一ヶ月はしていなかったと思うなぁ。
「シュミ、悪いよ」
私がぼそりと呟く。
「悪くない。俺の方が悪いから」
そんなこと、今更言われても。なんて言わなかった。言えなかった。
初めて、謝ってくれた。なんて事も思わなかった。
そんな野暮ったいことは全部忘れて、私が言いたいのはただの一言だった。
「迎えに来てくれて、ありがとう」
最初のコメントを投稿しよう!