午前三時のシンデレラ

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「なあ、音楽流しても良いよ」  暫くして、ユウタがそう言った。  ふん、なによ。私もイライラしてた。  シュミ、悪いね。その言葉がどうも胸に刺さったまま抜けないのである。私、シュミ悪いのかな。ユウタに聞く気にもならない。ただ、私が悪いみたいだった。うん、私が悪い。 「別に怒ってないから」  それだけ言うと、私は立ち上がって。ちょっと遅すぎるけれど、夜の散歩にでもいこうかなと思って。イライラしたときは外出に限る。冷たい夜風に当たれば頭もスッキリするだろう。厚手のコートをクローゼットから取り出して羽織る。軽く髪を梳かして癖毛を整えた。流石に今から化粧する訳にもいかないから色つきリップを引いて、鏡の前で確認。うん、マシな顔。 「怒ってるじゃん」  ユウタが私の方を向き直る。片手にスマホ。ゲーム画面をポーズさせている。私はたったゲームのポーズ時間でしか気を遣われない存在なのか。ずうんと胸が痛んだ。涙が零れそう。それから私がコートを着ているところを目で見て眉根を寄せた。 「外、危ないよ」 「こんな時間だし、大丈夫」 「俺も行く」 「一人で行きたい」 「………………」  腕時計を付けて、時刻を確認。午前三時半。あれから三十分たったんだ。気分転換にピアスもつけようかな。左耳にチクリと針の感覚。貫通。可愛い。悪くないよ。あれ、片っぽがない。どこに行ったんだろう?  でもまぁ、片耳のピアスも悪くはない。  玄関を開けて外に出る。真っ暗だ。草木も眠る丑三つ時すら過ぎた時間帯は誰もが深い眠りに就いている。太陽が真反対に居る時間、夜空はこれでもかってくらい真っ暗で、星達もこれでもかってくらい瞬いていた。冷たい風が頬を撫でる。うん、気持ちいい。近所の公園まで行ってちょっとしたら帰ろう。明日はお昼まで寝ていよう。うん、そうしよう。  ユウタは追いかけてこなかった。
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