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「あんまり好きじゃないなぁ、その歌」
私の大好きなバンドの曲を家で流していたら同棲相手のユウタがそう言った。スマホを弄りながら、ぽつりと誰に言うでもなく呟いた。午前三時。明日は休日の私たちは眠りに就くわけでも無くただだらだらと思い思いの事をしていた。私は衝動買いした小説を読んでいた。イマドキの女の子が旅に出る話。無音の部屋は何となく居心地悪かったから音楽を流した。そしたらこれだ。ユウタに合わなかったみたい。
「なんでよ」
「声が嫌いだ。あと歌詞も。ついでにメロディも嫌い」
つまり、全部じゃないか。ユウタは別にバンドを組んでいるわけでも熱狂的になれるバンドがあるわけでもない。まぁ確かに好き嫌いが別れるバンドなのは自負してるけど、そこまでズバッと言われるとちょっとムカつく。いや、かなりムカついた。
「私が好きなの知ってて言ってるワケ?」
「え、そうなの?」
シュミ悪いね。そう鼻で笑われた。こっちを見向きもせずに。突然のことで頭が真っ白になった。ユウタと付き合って二年。同棲し始めて三ヶ月のことだった。お互いのことは何でも知ってる。と、思ってた。それに私はそのバンドの大ファンだってこともユウタに言っていた。ライブも行ってるし、部屋の所々にグッズも置いてあるからユウタにも理解があるものだと思っていた。
もしかしてバンドの名前は知っていたけれど、曲自体は今の今まで知らなかったのかな。私もあまり人に勧めないタチだし、ユウタにこの曲聴いてみて! なんて言うこともなかったから。
とにかく、ユウタはこの曲が嫌いらしい。声も駄目だって。なんだか自分自身を否定された気がして音楽を止めた。それから無音の中で読書。物語はさっぱり頭に入ってこなかった。
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