揺れる

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 あの、一年前の雨の日は私たちが出会った6回目の記念日だった。 朝、起きた時に「おめでとう。」と言い合い、今夜は二人だけでささやかなパーティーをすることを約束した。  19時の待ち合わせ時間に合わせて家で、私は料理を作った。 ブイヤベースに、パエリア。サーモンのカルパッチョ。帰ってきたら、2人でスパークリングワインを開けて音楽をかけて料理を食べる。 今年こそ、プロポーズされるかもしれない。そんな期待もあった。  だが19時を回り、15分過ぎても雄星からは連絡もない。不安になってスマホに電話をしたが、留守電だった。雄星は研究室にいる間、スマホの電源を切っている。  20時、21時・・・。  何かあったのだろうか?冷めて、表面がパサパサになっていく料理たちを目の前で、いたたまれない気持ちになった。  しびれを切らして、雄星の親友で同じ職場である裕二に連絡をしてみると、すぐに騒がしい場所に紛れて裕二の声が聞こえた。 声を張り上げて、裕二が言う。 「美空ちゃん?え?雄星、いるよ?ちょっと待って静かな場所に移動する。」 そう言って、しばらく保留になったかと思ったら、  「ごめんごめん。雄星に代わろうと思ったけど、そんな雰囲気ではなかったわ。今日、職場の取引先でトラブってさ。営業の俺らだけだと力不足だから、雄星も誘って今、先方と接待中なのよ。先方が雄星の事気に入っちゃってさ、離してくれない訳。お陰で俺ら営業は助かったけど。本当に、恩にきります!」  ご機嫌で話をする裕二に、本当の事は言えなかった。  電話を切ったあとで、虚しさが拡がった。仕事で帰れないのは分かっている。でも一本連絡をよこすくらいの事がなぜできないのだろうか?トイレに行くふりをして、たった3秒で済む話だ。そんな簡単なことができない雄星の不器用さや、気の利かなさに腹が立った。  同時に自分にも・・・。
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