日々の受難

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「遼介先生」 今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな勢いで睨み合っていた遼介先生と北斗の間に体を滑り込ませ、自分より10センチは高いであろう男の顔を見上げた。 「……ん?何だ?」 遼介先生は怪訝な表情で俺を見下ろした。何をする気だ、とその目が語っている。 何って?───面白いことだよ。 にっこり笑みを浮かべて、未だ動くことが出来ない遼介先生の首に腕を絡ませた。 自分より背が高い大人の男の首に腕を回すには必然的に背伸びをしなければならず、それすら今の自分には腹立たしい事だったが、おくびにも出さなかった。 自然と距離が縮まった耳元で、吐息混じりに囁いた。 「ーーーーー」 「──…っ!」 ばっと俺の腕を振り払い、赤くなった頬を片手で覆って隠している遼介先生の姿を見て、やっと溜飲が下がった気がした。 「はは、先生顔真っ赤」 「おっまえ、まじで……っ!くそ、」 耳に口元を近づけた際に見えた美しい顎のラインに、男にしては小さい喉仏。それらが小さく動いて笑みを浮かべる様は、さながら情事を思わせた。 何を囁いていたのかは知らないが、性欲が有り余る思春期の男子にはもちろん、目の前の男にとってもその壮絶な色香の効果は覿面だった。 その日、二度目のトイレの大混雑が起きたのはもはや言うまでもない。 「……やっぱり、翔が一番風紀乱してるでしょ」 再び人数の減った教室内で呟いた北斗の声は、聞かなかったことにした。
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