非日常の始まり

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……あ、いた。 思っていたよりも早く、上級生らしき人の後ろ姿を見つけることが出来た。 けど、何か動きがおかしい。手には細長い棒……ホース?を持っている。入学式の朝から水やりか?偉いな。 「…っと ……ね…ぃ …ま…!」 そう思っていたら、先輩は一人じゃないようだ。話し声が聞こえたので身を乗り出して覗いてみるが、ここからは丁度死角になっていて相手は見えなかった。 けど俺は何故か気になって、そっと耳を澄ました。 この時俺は、やっぱり少し焦っていたのかもしれない。いつもの俺だったら、この時点でこの場を去っていただろうから。 「もっ…ぼ……ぃみず……け…く…ぁい!ハアハア」 けど、聞こえた声はどこか異様で、呼吸も荒い。もしかしたら何かあったのかもしれないと、俺は急いで駆け寄った。 「もっと僕に水をかけてくださいっ!ハアハア そして、罵ってくださいぃぃぃい!!」 「ふっ、私に罵られてそんなに気持ちいいですか?反吐が出るほど気持ち悪い趣味ですね」 「いいです副会長様ぁぁぁ!!」 「うるさいですね。貴方のような分際で私に喋りかけるなんて、百年早いんですよ。その何も入っていない空っぽで低能な頭では分からないのでしょうか?お腹の中から人生やり直したらいかがです?」 あはは……一体なんのプレイだよ、癖が強すぎる。俺は何も見ていない。心配して損した。 まあ、よく考えたらここはあの蒼梧さんの学校だ。まともなわけがない。 という事で、あの変態に見つからないようにここはそうっと「貴方、そこで何をしているんですか?」 やべ、見つかった。とりあえず無視しとこう。 顔を覚えられたらきっとろくなことが無いので、俺は振り向かずに理事長室を探す旅を再開することにした。 「すいません、手が滑ってしまいました。」 「っ、」 突如頭に降りかかってきた冷たい水。 最初は、自分が何をされたのか分からなかった。 けど、自身の髪からぽたぽたと垂れる水滴を見て、やっとホースで水をぶっかけられたのだと理解した。 ……っこいつ、ホースで水掛けてきやがった。何が、手が滑ってしまいました、だよ。ふざけんな。俺はあんたらと違って変態じゃないから、水かけられて喜んだりしない。 初対面の人間に水かけるとか……しかも俺は、曲がりなりにも新入生だ。胸に溢れんばかりの夢と希望を抱いて今この場にいるかもしれないだろ。 生憎俺はそんなもの持ち合わせていなかったからよかったけど。他の生徒だったら怒り狂うか、もしくは泣いていたかもしれない。 ……ここの常識は一体どうなってんだよ。それとも俺がおかしいのか?あぁ、頭が混乱してきた。これだから金持ちの坊っちゃんは嫌いなんだ。 俺は水で濡れた前髪をかきあげながら、副会長と呼ばれていた人の方に振り向いた。 「……っ!」 その瞬間、よく見たらとても綺麗な、整った顔をした美人の息を呑む音がはっきりと聞こえた。 その顔はさっきまでの表情から一変して、真っ赤に染まっていた。 …どうしたんだろう?
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