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あまりの眼力に小心者の俺は冷や汗を吹き出しながら固まった。
その冷たい眼差しはそのままで、コツコツと靴音を鳴らし、ゆっくりと目の前まで来た白濱先輩のことをドキドキしながら見つめた。もちろんこれは、この学園の生徒がイケメンを見て胸をときめかせるものとは全くの別物だ。
「来い」
「は、はいっ」
しかし目が合ったのは一瞬で、すぐに逸らされた視線を追いかけるように白濱先輩の後を追った。
……俺は今からこの人に一体何をされるんだ。もしかして気に入らない男の名前を出したから、二度とないよう拳で分からせてやる的なやつ?いつの時代だよ。怖すぎる。
この先輩は未だ学園に毒されていない常識人だって聞いたから、多分大丈夫なはずだ。そもそも風紀委員長だし。
もしかして体育館裏にでも連れていかれるのかと怯えていたけど、風紀委員室を出て少し歩いた廊下で白濱先輩は立ち止まった。
「……白濱先輩?」
内心ほっとしながら、俯いたまま何も話そうとしない先輩に声をかけると、振り絞るようなとても小さい声で呟いた。
「あいつには…竜王路には、近づくな」
「え……?どうして、ですか?」
言ったあと、ただならぬ様子に聞いてよかったのか少し迷ったけど、何となく、今聞かなければならない気がして、白濱先輩の次の言葉を待った。
「……理由は言えない。だが、あいつだけは駄目なんだ。分かってくれ、花宮。もう誰もーーーーーー」
え?最後、何て言って……
白濱先輩が俺に伝えてくれた言葉の最後の部分だけが聞きとれず、聞き返そうとするも先輩はその先を遮るように言葉を重ねた。
「…すまなかったな、花宮。」
今まで固く握り締めていた手の平を俺の頭にのせ、今まで見たことがない辛そうな表情で言った白濱先輩に、俺は何も言えなかった。
聞きそびれた言葉にどうしても胸の中のモヤモヤが消えず、なんとも後味が悪かった。
けれど、今の白濱先輩の様子を見てきっと俺には何も出来ないということは分かってしまったので、余計なことはせず白濱先輩の忠告を胸に留めて置くことにした。
白濱先輩は既に一人で風紀委員室に戻ってしまった。
会ってまだ数時間しか経っていないはずなのに、何だか胸が痛かった。
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