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彼とわたしの世間話
「さっきね、若い女の子が落ちたの」
欄干に身体を預けたまま、同じような体勢で並ぶ彼を見上げる。
彼は遠くにひろがる町の、畑ばかりで平坦な、でこぼこの少ないすかすかとした風景を眺めていた瞳を、ゆっくりとこちらへ向けた。
「若いってどれくらい?」
「たぶん、あなたと同じ中学じゃないかな。長袖の白いブラウスに、膝丈のスカートで、胸に赤い紐のリボン」
「今の赤は何学年だろう。俺の時は三年生だったかな」
「ふーん……あなたが中学の時っていつだったかしら」
「今からちょうど、八年前ですよ」
「ちょうどって、どこかちょうどになるの?」
「そりゃ、俺からしたら『ちょうど』になるからですよ」
わざとらしい、秘密をふくんだような笑みがそこにある。わたしは「そうなの」と相づちを打った。
「あ、ちょっと面倒くさく感じましたね?」
欄干に載せた腕に、顎を刺すように置く。七分袖からのぞく肌と、顎の皮膚とがくっつく。さらさらとしているようで、こすりつけてみると、肌同士がすきまなく張りついた。
「犬みたいな仕草ですね」
「いや、なんかしっくりこなくて。この体勢する時、どのへんに顎置いてたかな……」
とん、とん、と顎の位置を少しずつずらしていれば、健康的な色の指先が、わたしの腕の一部分を示した。空のほうを向いた肌の輪郭を下りて、中にある骨の丸みに沿う場所。
「置くというより、押しつける感じですよ。そうそう、そのへん」
「よく見てるね」
わたしでさえはっきりと覚えていないのに。変なヒトを観察するような、彼をいじるための視線を送ったのだけれど、彼はその視線を受け、ほのかに頬を赤らめた。
「伊達にお姉さんのこと八年も見てませんからね」
「や、やめてよ、そういうの。恥ずかしい」
むずがゆさを感じて、つま先同士をすり合わせる。
「いい加減慣れてもいい頃じゃないです? もう八年ですよ、八年。赤ちゃんも小学生になる年月なのに」
「いい? あなたが相手しているのは赤ちゃんじゃないの。わたし」
「いい大人ですからねえ」
「そう。イイオトナ」
「俺も同じですけど」
橋の下に流れる川の音を聞こうとうつむいていたが、隣で衣擦れがして顔を上げた。
欄干に預けていた身体を、まっすぐ立たせた彼が、わたしを見下ろしていた。視線の高さの違いが嫌でも気になって、思わず睨むように見た。
わたしの表情を知ってか知らずか、彼はすずしいまま、手のひらでわたしを呼ぶ。
「なあに」
「ほら、お姉さんもちゃんと立って」
腕をつかもうと、肩をつかもうと、彼の指がさまよった。のばされかけた指がわたしの身体のどこかに触れることはなかったものの、わたしは彼に引っ張られるような心地で、欄干から身体を剥がした。
「もうちょっと、俺の前に」
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