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「……蓮水くん、随分とその曲に思い入れがあるようね」
夕咲が目を細めて、しまわれた音楽プレイヤーの方を見つめた。言われた星來は、ピクリと肩を揺らして夕咲を一瞥する。紫と橙のオッドアイが、星來を見つめて瞬く。
「セピア色……なんだかノスタルジックな感じがしたわ」
簡単に見抜かれるんだなと星來は思わず苦い顔をした。
「あぁ……うん、これは大事な曲なんだ」
「んだよ、彼女が好きな曲とか?」
「彼女はいないよ」
「だよな!」
「ちょっとそれ、どういう反応なの?」
「いで!」
眩しい笑顔でそう言った律夜に、星來はすかさずノートを取り出して律夜の頭を軽く叩いた。「悪かったって」と一言謝罪しながら、律夜が大袈裟に痛そうな反応をして頭を擦る。
咳払いをして仕切り直しながら、律夜が口を開いた。
「でもさ、普段そこまでクラシック聞いてないせいちゃんが聞くってことは、余程大切なものなんだな」
「うん。小学生の時にさ、入院してた病院でよく話してた子が弾いていた曲なんだ」
懐かしむように目を細めた星來は、窓の外の夕焼けに一度視線を送った。
「……女の子かしら?」と夕咲が尋ねた。
「そうだよ。よく分かったね。星が好きで、ピアノが上手な元気な子だった。確か、隣町に住んでたかな。その子の影響で俺も星が好きになったんだよね」
まだ見えない星を探しながら、星來は微笑んだ。
夕咲は、それを聞いて口を閉ざした。星來をじっと見つめ、何かを懐古するような寂しげな目つきをする。
夕咲の目には、桃色が映りこんでいた。星來から、『その子』に向けられた愛が感じられたのだ。
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