Daydream2:揺蕩う悪夢の中で

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 不安定な世界に立っていた。  霧が立ち込める、不鮮明で薄暗い世界。色彩の全てを失ったこの場所は、不気味で微かな恐怖が芽吹く。見渡す限りの灰色。纏わりつく生温い気配。ここはどこだと、瞬きを繰り返した。  星來(せいら)は、その場にぼんやりと立ち尽くしたまま目先のスクリーンを見つめていた。映画館にあるようなそれは、何もない空間の中で一際目を惹いている。じりじりとノイズを走らせ、砂嵐を表示するそれは、なぜだかこちらに来いと手招いているように感じた。  半ば無意識的にそれに歩み寄り手を伸ばせば、目が眩むほどの閃光が弾ける。反射的に目を瞑ったその瞬間、体はスクリーンの中へと引きずり込まれた。 『**!あのね、今日の夜ご飯はオムライスだって~!』  よく通る幼い声が、星來の鼓膜を揺らした。眩しさで覆っていた目をゆっくりと開けば、そこはどこかの家庭の風景だった。モダンな家具に、整頓された本棚。洒落たインテリアと、柔らかそうなソファ。  そこに座っていた誰かに向かって、声の主と思わしき人物は走っていった。 『ほんと?それは楽しみだね』  落ち着いた声が、ソファに座っていた学ラン姿の少年から発せられる。黒く真新しい学生服は、少年の体より少し大きく、袖が多少余っていた。その少年の顔は、意図的に誰かが覆い隠しているみたいに、ぐちゃぐちゃと黒い線で潰されている。幼い子供がクレヨンで書きなぐったみたいに、黒く歪んだ何かが少年の顔を消しているのだ。何度目を擦っても、その少年の顔が見えることはなかった。
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