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『ねぇねぇ**、今度お外で遊びたいっ!』
『調子は大丈夫なの?』
『うん!少しなら遊んでもいいって!』
『良かった。じゃあ、公園にでも行こうか』
学ランの少年がやんわりと言うと、幼い少年はにこやかに笑った。学生服の少年が幼い少年を撫でると、和やかな空気がその場に流れる。不思議と、その空間から切り離されている星來の胸がほんのりと温かくなった。
そんな二人の少年が仲睦まじく話している光景を、星來は遠巻きに見つめていた。
あれは、幼き日の自分だ。間違いない。
無邪気に笑って目を輝かせるあの少年が、自分自身であることに気が付いた。あんなふうに、外で遊びたいと誰かに飛びついていった記憶はなんとなくある。
だが、幼い自分と会話をしているあの学ラン姿の少年には見覚えがない。自分の知り合いに、あれくらいの年の少年は居ただろうか。
そう記憶を辿ろうとした時、視界にノイズが走って砂嵐のように目の前の光景を攫っていった。ザーザーとけたたましい音を立てて、世界を作り替えていく。
シーンが切り替わり、やけに無機質な空間が広がった。色彩が失われているせいで分かりにくいが、おそらく壁が真っ白なのだろう。少しだけ、薬のようなにおいが鼻を掠めた気がした。
視界の先では、また学ランの姿の少年が幼い自分を連れていた。手を繋ぎながら、どこかへと歩いていく。あのような記憶は自分の中にはない、と不思議に思っていれば、ふと星來の横を見覚えのある少女が駆け抜けていった。
『***さん、星來くん!お星さま見にいこ!』
朗らかなその声の主は、入院生活をしていた時に出会った妹尾陽星であった。白いワンピースをなびかせて、二人の許へと駆けよっていく。
『陽星だ!いいよー!』
『仕方ないなぁ。少しだけだよ?』
三人はその後に何かを話した後、星來の見えないところまで歩いていってしまった。
幼い自分に加えて、陽星ともあの学ランの少年は知り合いだった。ならば余計に記憶にあるはずなのだが、何度頭を捻っても自分にあれくらいの年齢差がある知り合いは浮かんでこない。だいたい五、六歳離れているように思うが、星來にはそれくらいの年の差がある年上の知り合いはいなかった。
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