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しかしながら、これは確かに自分の過去の記憶だった。陽星とは、こうしてよく星を見に行っていたし、病院内でこのような会話をしたことも覚えている。
だが、やはり何かがおかしい。それは言うまでもなく、自分の知らない男が過去の記憶に存在しているからだ。
最近になってよく見るようになった過去の夢。しかも、夢だと認識して見ることの出来る明晰夢ばかりだった。
必ず出てくるあの学ラン姿の少年は一体誰なのだろうか。相変わらず声はよく聞こえないし、顔もぐちゃぐちゃに塗り潰されている。さらには彼の名前らしき声だけが雑音にかき消されて聞こえなかった。
しかし、あの少年が以前見た事のある少年だと何となく認識できた。トンネルをくぐり、化け物から逃げたあの日。最後に一瞬だけ見えた姿にそっくりなのだ。
『……星來』
不意に誰かに名前を呼ばれた気がして振り返る。音にならない不思議な声だった。
「だれ……?」
振り返って問うと、そこに立っていた少年は背を向けて無言で立ち去っていく。
その光景が、何かと結びついた。
あの少年を引き止めなければならない。そうでなければ、何か取り返しのつかないことになるような気がして。
どこか遠くへ行ってしまう。
なぜだか、それが無性に嫌だった。
「待って……!」
そう手を伸ばして走り出そうとするが、耳を劈く甲高い音と雑音に頭痛が押し寄せた。視界が大きく揺らぎ、急速にぼやけていく。
豆粒ほどに小さくなった少年の姿に手を伸ばすが、その手は闇に飲まれてやがて意識は暗闇の底へと落ちていった。
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